二〇〇七年早々に、東京都渋谷区の歯科医師一家で、兄が妹を殺してバラ
バラにするという衝撃的な事件が起きました。
軽々しく論することは慎まなければなりませんが、この事件に子育ちと子
育ての問題が潜んでいないか考えてみたいと思います。
この一家は両親が歯科医師、祖父も歯科医師、犯人の兄も歯科大学在学
中、犯人も歯科医師を目指して三浪中、今年も受験期を前にして合格は至
難事という状況にありました。
もちろん、犯人の罪は許されるはずもありません。しかし、両親にも問題
はなかったでしょうか。犯人の幼少時から、両親が子育ちではなく子育ての
レールを敷いてはいなかったかと案じられます。
ひるがえって、わが家の育児をお伝えします。現在、私の四人の子どもは、
長女が主婦長男がレストラン経営、次男が製紙関係会社のサラリーマ
ン、次女が飲食店勤務と、社会人として堅実に毎日を送っています。ひ
とりも医者にはなっておりません。
もちろん、子どもの方から医者になりたい(子育ち)と希望があれば、
親としてできるだけの協力をすることにはやぶさかでなかったと思いま
す。しかし、親の方がレールを敷いて医師にする(子育て)事は、その子
の人世の選択肢や幅を狭めることになってしまいはしないでしょうか。
それぞれの子どもには、その子の適正にあった職業があるはずです。
それを本質的、全体的、長期的な視点に立って、みつづけてゆくのが親
の務めであると考えています。
以前に、「橋のない川」の作者住井すえさんと語り合ったことがありま
す。住井さんは母親大会のときなどに「子育てをしないで下さい、その
子にあった子育ちをして下さい」と訴えつづけておられました。
未来あるお子さんの、それぞれにあった子育ちをしていただくよう、
ご両親に望みたいと考えております。 |