光陰矢のごとし。私が医者になって50年あまりの歳月が流れ去ってい
きました。その間、小児科医として心がけてきたことは、よきアドバイ
ザーに徹することでした。
そもそも、医者やクスリが病気を治せるはずはありません。病気を治
すのはあくまでも子ども自身です。
子どもの病気が早く治るように、それ以前に病気にならないように、生
活環境を整えるのが家族の務めです。
そうした人々に、小児科医としての体験を通じての知恵を伝えるのが
小児科医の責務と考えて診療に当たってきました。
子どもと目の高さを同じにして接することも必要です。それには、子
どもの能力が非常に高いことを熟知しておかなければなりません。むし
ろ、自分の目の高さを子どもの高さにまで高めて接するのが望ましいの
です。
そうすれば、子どももそれを察知して円滑に対応してくれますから、
診療もきわめてスムーズにゆきます。これは、家庭での親子の対応に
ついても同様にいえると思います。
子どもを診療する上では三つのポイントに留意しています。「本質的
にみる」「全体的にみる」「長期的にみる」ことです。
本質的に子どもと大人は全く違います。その違いをしっかりと把握し
た上で、それぞれの子どもに適合した診療をしていかなければならない
と思います。
年とともに医療が細分化されています。それはそれでやむをえない事
かもしれません。しかし、いつでも心身面を含めて子どもの全体像を観
察し続けていかなければなりません。「樹をみて森をみず」であっては
ならないのです。
長期的な展望にたって子どもと接していくことは、医療に限らず、大
人にとってきわめて大切なことだと思います。
このようなことを心がけて五十年間を過してきました。今後もそうし
た医療を続けていきたいものと考えております。 |