一九〇四年、村井弦斎はその著書『食道楽』の中の冒頭に次のように記しています。『小児には、徳育よりも、智恵よりも、体育よりも食育が先』 それから百年、最近ではマスコミでも食育という言葉が使われるようになりました。小泉首相まで時折使っています。
本年六月十七日、法律第六十三号が公布、七月十五日に『食育基本法』が施行され、国を挙げての食育が本格化しました。食は生命と健康の基本であり、食育で子供達の食習慣の形成を促すことにより、将来の社会全体への効果を期待してのものです。 しかしながら、いま行政や大企業が提唱している食育は、残念ながら本来の食育とは似て非なるものなのです。理由ははっきりしています。村井弦斎の食育はあくまでも優れた日本の伝統食文化に根ざした発信です。
一方、現代の食育は経済効果を加味したものであるからです。もちろん経済性を軽視することはできませんが、企業の利潤が優先されるあまり、食育の基本が見失われてしまっているのです。それでは、食育の基本とはどのようなものでしょうか。大切なのは食材の選択です。『身土不二』という言葉で表されるように、できるだけ地場に近い食材を選ぶことです。
四季の変化に富んだ日本では旬の味を食べることも必要です。食べ物の基本は生きものを食べることです。生きものは必ず死にます。死ねば腐ります。したがって『腐るものを腐る前に食べる』ことが究極の食育になります。食べ方にも気を配りましょう。まずよく噛むことです。そのためには箸と箸置きを使いましょう。血行をよくして消化吸収を促進するために手をよく使いよく歩きましょう。そして、もっとも大切なことは、生きものの生命をいただくわけですから、感謝の気持ちを持って食卓を囲むことだと思います。 |